世界標準の経営理論(著:入山 章栄 早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)の理解を深めるために、内容のまとめをアウトプットしていきます。
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今日はグローバル経営と経営理論です。
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グローバル経営には経営理論がない
グローバル化が進む現代では、グローバル経営の理解はビジネスパーソンに不可欠となっている。本章では思考の軸としての”世界標準の経営理論”が、グローバル経営をどのように切り取るのかを解説する。
グローバル経営領域は固定理論が乏しいのだが、グローバル経営の理解には「(国内企業の経営を説明する)世界標準の経営理論」を当てはめれば十分と言える。
なぜなら経営理論のフィルターを通せば、グローバル経営と国内経営には、本質的なメカニズムの差は無いからである。
グローバル経営の2大「理論のようなもの」
まずグローバル経営でよく議論される現象分野について整理する。
現象分野①海外進出時の意思決定(進出タイミング、進出先、進出形態)
グローバル経営の出発点は、企業が海外進出の際にする意思決定だ。ここでは「海外進出=企業が海外に法人を設立して、その子会社を通じて事業を行う」と定義する。従って輸出だけや海外企業にライセンシングを供与するだけは範疇ではない。
理論的な研究が進んでいるのは次の3つである。
・進出の時期・タイミング
・進出する国・地域
・進出形態
まず進出のタイミングは当然ながら重要な意思決定になる。加えて企業が海外のどの国・地域に進出するかという、立地選択(location choice)の研究も盛んだ。
そして最も研究が進んでいるのが進出形態である。多様な進出形態のどれを選び、どの選択が現地での業績を高めるかを探求する研究が、多く行われている。
上述の3点を説明するためにグローバル経営領域には、独自の理論のようなものがある。それが「OLIパラダイム」と「ウプサラ・モデル」だ。
OLIパラダイム(Eclectic Paradigm:折衷パラダイム)
OLIパラダイムの基本主張は「企業が海外に進出して法人を設立するには3つの優位性(advantage)『強みの所有(ownership)』『進出国(location)』『内部化(internalization)』を基準に判断すべき」というものである。
まず強みの所有の優位性とは技術力、ブランド、ノウハウ、経営手法など、企業が持つ固有の強みのことだ。そもそも企業の海外進出は慣れない異国で新しくビジネスを行うことになるため、現地企業と比較して根本的にハンディキャップがある(liability of foreignness)。そのハンディキャップを補うだけの強みを持っているかどうかを問うことが海外進出の第1条件となる。
次に進出国の優位性とはその企業固有の強みを活かせる進出国を選ぶべきということだ。例えばブランドが強みなら、それを発揮しやすい現地代理店の存在や、感度の高い消費者が進出先の条件かもしれない。
最後に内部化の優位性とは、その企業固有の強みを進出国へ移転する際に企業『内部』を経由させる優位性だ。言い換えると「企業が、輸出やライセンシングなど市場ベースの取引ではなく、あえて法人を設立して海外に進出する理由には、それなりの理由が必要」ということである。
例えば自社製品を海外で販売する際にただ輸出するだけでなく、現地で法人設立して工場を建設するなど多額のコストを払ってもあえて海外進出するだけのコストを上回るメリット(advantage)が必要ということだ。
ここで重要なポイントは上述の3つのポイントは全て過去に紹介してきた理論で説明がつくということだ。
まず「強みの所有」「進出国の優位性」を説明するのはRBVだ。まさに「経営資源に価値があって、稀少で、模倣困難な時に、企業は持続的な競争優位を実現する」というRBVの命題そのものである。
一方内部化の理論的根拠は取引費用理論である。取引費用理論の内部化(internalization)のロジックは「将来の不確実性が高く、取引相手がこちらを出し抜く恐れがある時ほど、企業は相手と市場を通じて取引するよりも、相手が行っていることを自社内部に取り込んで自身で行う方が効率的になる」というものだった。
ウプサラ・モデル
ウプサラ・モデルとOLIパラダイムの最大の違いは静的か動的かだ。
OLIパラダイムが企業の「その時点での意思決定・行動」を切り取る静態モデルであるのに対して、ウプサラ・モデルはダイナミックな視点を取り込んでいることだ。
特にウプサラ・モデルが重視するのは「企業の学習」である。従ってウプサラ・モデルは企業行動理論(BTF)が基盤となっている。BTFは「人・企業は認知に限界があり、その認知の範囲を広げること(=学習すること、サーチ)がパフォーマンス向上に欠かせない」と主張する。
そしてウプサラ・モデルでは海外進出企業の学習の方向性は2つある。
まず第1に進出する国の選定である。まずは自国と文化・制度・距離などが近い国から進出し、そこで経験を積んで学習し、徐々にサーチの範囲を広げ、「遠い」国へ進出を進めるというものだ。
第2の方向性は進出形態である。まず輸出・フランチャイズなどリスクの小さい形態で海外ビジネスを始め、市場の状況や商習慣を学習した上で、徐々にサーチの範囲を広げ、やがて学習が進んだら現地法人による販売拠点・製造拠点の設立などを行う、という考えだ。
OLIパラダイムは「その進出時の企業が持つ経営資源とその他の条件によって、進出国と進出形態の条件を任意で選ぶ」という考えだ。一方、ウプサラ・モデルは「どの企業も初めは近隣国でライセンシングから始め、学習を重ねることで徐々に距離的・文化的・制度的に遠い国に進出したり、よりコミットメント度の高い進出形態を取ったりするようになる」と考えるのだ。
例えばウォルマートがブラジルに進出した時の説明を両者の視点で考えると以下の通りになる。
・OLIパラダイム視点
ウォルマートが1995年にブラジルに進出したのは、「大量仕入れによる低価格戦略」という同社の強みを活かしやすい国がブラジルで、その強みを生かすには完全子会社にして取引費用を抑えることが重要だから
・ウプサラ・モデル視点
ウォルマートが1995年にブラジルに進出したのは、より文化的・地理的に近いメキシコやカナダにまず進出して学習を重ねた後だからであり、先にメキシコで合弁を組んだ経験があるからこそ、ブラジルでは完全子会社で進出できた
この2つの視点は過去に紹介したRBV、取引費用理論、BTFの応用にすぎないため、パラダイム、モデルという言葉が使われているのかもしれない。
グローバル経営を説明する理論は国内経営と変わらない
現象分野② 多国籍企業の戦略
多国籍企業の戦略の方向性を理解する上で、MBAの教科書で間違いなく紹介されるのがIRフレームワークとAAAフレームワークだ。
しかしIRやAAAはあくまでもフレームワークであり、経営理論ではない。IRやAAAはあくまでも企業の戦略パターンを整理するだけで、whyには答えてくれないのである。
ではどの理論を使うのか。
実は戦略(strategy)に応用される理論と同じだ。競争戦略を考えるにはSCPやRBVが有用だし、垂直統合には取引費用理論やエージェンシー理論が使われる。近年はソーシャルネットワーク理論も応用されている。
現象分野③ 多国籍企業のイノベーション
近年は多国籍企業がイノベーションを起こすメカニズムも注目されている。この分野も従来のイノベーションの理論でほぼ説明できる。
例えばリバース・イノベーションだ。
これは先進国に本拠を置く多国籍企業が、技術的に劣るとみなされていた新興国のイノベーションを本国に持ち込む事である。このリバース・イノベーションも自社の本拠地から離れたちを獲得するのだから、知の探索理論で説明が可能だ。
現象分野④ 多国籍企業の人材育成・HRM
近年は多くの企業で、グローバルな視点を持つ経営者候補の育成が求められている。この人材育成やHRMも過去に紹介した国内での人材育成・HRMの理論が応用可能だ。
現象分野⑤ 多国籍企業のガバナンス
エージェンシー理論など経済学のディシプリンの理論は多国籍企業の研究に広く応用されているし、社会学ディシプリンと関連深い理論が応用されるだろう。
このようにグローバル経営領域における様々な現象分野は、過去に紹介した理論で説明できる。これは「グローバル経営は、理論的には国内経営のメカニズムと本質的に違いがない」ことを示唆する。この点を理解するカギは国境にある。
国境とは何か
グローバル経営という現象領域は世界に国境があるから成立する。
国と国の間はビジネス環境に違いがあり、企業が一度国境という線を越えれば、直ちにその違いに直面すると考えられている。
しかしこの前提は本当に正しいのだろうか。企業が実際に直面する課題はビジネス環境の違いである。
従来のビジネス誌などで語られるグローバル経営では「国境を越えれば、そこではビジネス環境が大きく異なり、また逆に国内では環境はほとんど異ならない」と暗黙に仮定されていたのだ。
本来「国境を越えること」と「ビジネス環境が違うこと」は分けて考えられるべきで、これがグローバル経営に独自理論がない理由だ。
なぜならビジネスにとって本質的に重要なのは、国境を越えることではなく進出したビジネス環境に違いがあるかどうかに尽きるからだ。
グローバル経営の5つの展望
これからのグローバル経営は、多くの変化を同時に見通す必要がある。その変化は過去に紹介してきた経営理論を思考の軸として応用すれば十分に説明可能だ。
展望① 国境に縛られないスタートアップ企業の台頭→取引費用理論などで説明
まず、海外進出時の意思決定(タイミング、進出先、進出形態)は、既に大きく変容しつつある。従来、同分野は取引費用理論(あるいはそれを応用したOLIパラダイム)で説明できた。
しかし創業間もない段階から取引コストを大幅に抑えられたスタートアップ企業が、一気にグローバル展開できるようになっている。今後はボーン・グローバル企業が台頭するはずだ。この台頭は、取引費用の低下として説明できるのだ。
展望② 制度の違いの更なる顕在化→ゲーム理論や制度理論で説明
今後は「国境を越えてのビジネス環境の違い」がある程度まで解消される一方で、解消されない違いも残る。結果、違いが残る部分の克服が、多国籍企業で相対的に重視されるようにある。
具体的には国の法制度・社会制度だ。
今後の多国籍企業には非市場戦略(non-market strategy)が欠かせない。非市場戦略とは、民間企業がその国の政府・司法部門等に働きかけ、競争環境を自社に有利にすることだ。
今後は法・社会制度を理解し、戦略的にアプローチすることに視座を与える理論、例えば制度理論やゲーム理論がより重要になるはずだ。
展望③ 多国籍企業の立地戦略の見直し→KBVと制度理論で説明
展望1,2で解説した変化は、巨大な多国籍企業の立地戦略にも影響を与える。
例えば特に最近の欧米の大手企業は、形式知化できる情報は、企業内部では世界中でシームレスに、瞬時に共有されている。企業を知の集合体とみなす、ナレッジ・ベースト・ビュー(KBV)などが説明に有用だろう。
一方、国境ベースでまだ差異が大きいビジネス環境に縛られる側面も先鋭化する。
例えば法人税だ。
近年、多国籍企業の租税回避のための立地戦略が世界的な問題になっているが、これは多国籍企業を取り巻くビジネス環境要素の中でも、国ごとの税格差が際立ってきたからと考えられる。
展望④ 国境を越える人的ネットワーク・コミュニティの台頭→エンベデッドネス理論、ソーシャルキャピタル理論で説明
従来の多国籍企業とは異なるビジネス・アクターが台頭しつつある。例えば「超国家コミュニティ(transnational community)」がそれにあたる。
展望⑤ スパイキー・グローバリゼーションの顕在化→SECIモデル、エンベデッドネス理論、ソーシャルキャピタル理論で説明
今後は、人、情報、もの、カネなどの移動がよりスムーズになる。逆に言えば一国内でも「より魅力的な都市に人、もの、カネなどが集中する」ことを示唆する。
例えば起業活動だ。
なぜ起業活動は一国内の特定都市に集中するのか。それは起業活動では特にインフォーマルな情報・暗黙知が重要だからだ。
インターネット上の形式知は、誰もが手に入れられるのだから、逆に言えば「価値がない」のだ。むしろインターネットが普及した時代だからこそ、ビジネスで勝負を決めるのは、インフォーマル情報になるはずだ。
「特定都市への集中」と「国境を越えたビジネス環境の格差解消」は、やはり矛盾するようにも聞こえる。この矛盾を解く一つのカギは、「今後のグローバル化は国と国の間ではなく、ある国の都市と、別の国の都市間でのみ集中的に起きる」という視点ではないだろうか。
この都市と都市の間で集中的に起きるグローバル化をスパイキー・グローバリゼーション(spiky globalization)と呼んでいる。
このように「グローバル経営」の未来を見通すには、「国境とは何か」を深く考えることが非常に重要になる。