世界標準の経営理論(著:入山 章栄 早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)の理解を深めるために、内容のまとめをアウトプットしていきます。
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今日は企業ガバナンスと経営理論です。
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目次
企業ガバナンスが世界で関心を集める理由
企業ガバナンスの視点には[企業ガバナンスのあり方は、必ずしも一様ではない]という特徴がある。
経営学の企業ガバナンス研究第一人者も自身の論文で[その定義は”当事者が世界をどう見ているか”によって異なりうる。]と述べている。
実は企業ガバナンスには[世界中どこでも、絶対にこれが正しい]という全てを超越したものがあるわけではない。価値観や文化・制度的背景で異なる。
伝統的な[従来型の企業ガバナンス]の視点と[新しい企業ガバナンス]視点を分け、それぞれの思考の軸となる経営理論を解説する。その上で企業ガバナンスの2大理論を比較したい。
企業ガバナンス領域の構造
企業ガバナンスの定義:企業ガバナンスは、資金を企業に提供するものに対して、投資に対するリターンを保証するための仕組み
従って、株主・債権者などの資金提供者を、第1に重要なステークホルダー(関係者)と考える。その権利・リターンを保証するのが、ガバナンスの目的ということだ。
従前のガバナンス領域は「内部ガバナンス」「外部ガバナンス」に分けられる。そして前者は取締役会など企業内部における経営陣の統制メカニズムに焦点を当てる。
企業内部のガバナンス分野
内部ガバナンスの研究トピックは以下の3つに分類される
1.取締役会(主要トピック:取締役会の独立性,CEOの取締役会議長兼任,取締役の自社株保有など)
取締役会の構造・独立性や、それが企業の意思決定に及ぼす影響を探究する分野
2.株主構成(主要トピック:株主の集中度,株主のタイプなど)
“株主構成は特定株主に集中する方がいいか、多数の小口株主に分散した方がいいか”などがテータ
3.経営陣へのインセンティブ付け(主要トピック:ストックオプションの効果など)
報酬制度を通じた経営陣へのインセンティブ付けが、彼らの行動に与える影響を探究する分野
外部ガバナンス分野
外部環境が、そのガバナンスに与える影響を探る。以下の6つの外部ガバナンスを取り上げている。
1.法制度
法制度は、企業ガバナンスの規律に大きな影響を与える。大きく「アングロサクソン(北米)系」と「大陸系」に分かれる。前者は株式市場を重視する流動性の高い市場を念頭に置いた法体系である。一方後者は、大株主が企業株を長期的に保有することが念頭にある。
2.株式市場による統制
株式市場が十分に機能していれば、経営者が市場から支持されない判断を下せばその企業の株価は下落し、他社からの買収リスクに晒される。
3.外部の監査機関
監査法人がモニタリング機能を果たさない場合、企業には十分な規律付けがされない。
4.格付け機関、アナリスト
格付けは、その企業の信用性を左右し、従って企業ガバナンスに規律をもたらしうる。
5.アクティビスト
以前のアクティビストは「乗っ取り屋」のイメージが強かった。近年は経営陣にまずは企業価値向上の施策を提言することが主流のようだ。
6.メディア
広義に捉えればメディアも重要な外部ガバナンス機能の一つである。他方、メディアにはバイアスもある。「CEOがジャーナリストをうまく取り込めている企業ほど、企業業績が悪化してもジャーナリストからネガティブな評価を受けにくい」傾向を明らかにしている。
従来型ガバナンス研究の最初の発信地は、アメリカを中心としたファイナンス分野である。
エージェンシー理論は企業ガバナンスの必修理論
エージェンシー理論ほど企業ガバナンス研究に長く応用されてきた理論はない。ガバナンスに関心がある人が思考の軸として理解すべき、必須の理論である。
同理論では企業の所有者である株主をプリンシパル(主体)と呼び、経営者は株主の代わりに企業経営を代行するエージェント(代理人)と捉えられる。
ここで問題なのは株主と経営者の目指すことが一致するとは限らないことだ。(=目的の不一致:interest misalignment)
株主は企業の市場価値(株価)を高めて欲しいわけだが、経営者は名誉などそれ以外の欲求を持ち得る。
株主はその行動・欲求を十分に監視できない(=情報の非対称性:information asymmetry)ので、経営者は合理的な意思決定として、自分の個人的な目的を優先し、結果として株主の目的が達成されないというエージェンシー問題が生じるのだ。
エージェンシー問題は人が合理的だからこそ、起こる。逆に言えば、先に紹介した内部・外部の企業ガバナンスは、エージェンシー問題を抑制するための機能と解釈できる。
ここからは内部のガバナンス機能に絞って簡単に解説する。
1.エージェンシー理論から見た取締役会のあり方
エージェンシー理論からは、取締役会のあり方にいくつもの示唆が得られる。その代表は、独立社外取締役の存在だ。株主の代わりに外部の目の機能を果たし、情報の非対称性を解消することが期待できる。
他方で、これは社外取締役の人選が極めて重要なことを意味する。経営陣側に近かったりすれば目的の不一致は解消されない。また、その人に監視する意思と能力がなければ情報の非対称性は解消しない。お飾りの社外取締役ではやはり意味がないのだ。
2.エージェンシー理論から見た株主構成のあり方
エージェンシー理論からは、ある程度大口の株主がいた方が、その株主(プリンシパル)の意見が株主総会などを通じて通りやすくなり(=目的の不一致の解消)、また社外取締役を送り込むこともできる(=目的の不一致と情報の非対称性の解消)
他方、株主間のエージェンシー問題を新たに生じさせる可能性もある。少数株主をプリンシパル、大株主をエージェントと見なせば、少数株主が不利になる可能性がある。この代表例が親子上場だ。
3.エージェンシー理論から見た、経営陣へのインセンティブ付けのあり方
経営陣の報酬を株価に連動させれば、目的の不一致は解消しうる。その理由で「報酬を株式でもらう」「ストックオプションの付与」などが重要になる。
今までは企業ガバナンスを説明する中心が、長らくエージェンシー理論だったことは疑いない。思考の軸としてまず理解してもらいたい。
ただ上述したように、あるべきガバナンスとは「当事者が世界をどう見ているか」で変わりうる。未来への視座として主に2つのトレンドを追っていこう。
第1のトレンドは「ステークホルダーの多様化」であり、第2のトレンドが「スタートアップ企業や同属企業など、多様な企業ガバナンスへの注目」である。
株主だけが第1の時代は、終わりつつある
まず第1のトレンド「ステークホルダーの多様化」について。
現在、世界の様々なところで株主や債権者に限らず、従業員、顧客、さらには地域社会、NPOなどの多様なプレーヤーをステ^具ホルダーに位置付ける流れが起きている。
米国でもこの流れがあるのだから、大陸法を持つ欧州各国はすでに株主以外のステークホルダーを考慮している。例えばドイツ企業では会社の最高意思決定層の選出において、株主と従業員が同等の力を持っているのだ。
カルビーの元会長松本晃氏は「ステークホルダーの優先順位は第1に顧客、第2に取引先、第3に従業員とその家族、第4にコミュニティ、そして最後に株主」と言って憚らない。
なぜ現代はステークホルダーの多様化が叫ばれるのか。
第1に様々な企業・組織の間のネットワーク化が進み、その関係性が顕在化してきているからだ。
そして第2に世界的な社会問題・環境問題などの行き詰まりや貧困率の上昇傾向、気候変動、食料問題深刻化の可能性もある。
最後にグローバル化だ。ある国で通用したガバナンスが他国で通用しない、という事態が生じている。結果的に、様々な国・地域でのガバナンスのあり方が比較・検討されるようになってきた。
世界の潮流は「多様なステークホルダーを前提とした時代に、どう企業ガバナンスを機能させていくか」に移ってきている。
新時代のガバナンス理論は社会学ベースである
企業が多数のステークホルダーと繋がっていることを前提にすれば、「繋がり」のメカニズムを解き明かす社会学ベースの理論が有用だ。
エンベデッドネス理論とソーシャルキャピタル理論
経済学ディシプリンのエージェンシー理論は、人の合理性と利己性を前提とした。仮に、プリンシパルとエージェントの間に「心理的な信頼関係」が成立するなら、この前提は当てはまらないかもしれない。
この可能性を説明するのがエンベデッドネス理論やソーシャルキャピタル理論である。
これらの理論は「人と人が社会的なつながりに埋め込まれると、互いが心理的信頼関係を醸成し、エージェンシー理論が説明するような精緻な制度設計を代替する」と考える。
社会学ベースの制度理論
制度理論は「企業ガバナンスの基準は、その企業が拠点を持つ国・地域などの同質化プレッシャー(isomorphism)に晒される」と主張する。
一般に先進国ではコンプライアンスに対する同質化プレッシャーが強く、どの企業も賄賂のような不正は行わない。しかし新興市場では、賄賂がなければ商売にならないというプレッシャーがある。
結果、現地法人は両方からのプレッシャーの板挟みとなり、ビジネスのスピードが落ちていくのである。
資源依存理論
資源依存理論には「他企業に依存して相対的にパワーが劣る企業は、相手企業の役員を自社の取締役に迎えるなどして、パワーの不均衡を是正しようとする」という命題がある。
では次にもう1つの潮流に移る。それは世界的な起業のムーブメント等により、多様な成長ステージにある企業のガバナンスをどう考えていくかである。
上場企業、非上場企業、同族企業など、この世には様々な企業の形態がある。企業の置かれる状況の多様性を踏まえると、エージェンシー理論以外の説明も求められるかもしれない。ここで経営学者が注目する理論がスチュワードシップ理論である。
スチュワードシップ理論
スチュワードシップ理論:エージェンシー理論の対局に位置付けられる
最大のポイント:経済学の「人は自己利益のために合理的に意思決定する」という前提とは異なる「人についての前提」を持つことだ。
具体的には人の達成感、満足感、敬意、倫理観などを前提にするのがスチュワードシップ理論だ。
この前提に立てば「人は自分の所属する企業のために、与えられた職責を全うする」という帰結になる。stewardshipには「受託責任」という意味がある。
スチュワードシップ理論の視点では、エージェンシー問題が提示する「目的の不一致」の前提が希薄になるのである。
ここでのポイントは、スチュワードシップ理論が当てはまりやすい企業と、そうでない企業がある可能性だ。特にスタートアップ企業や同族企業では、スチュワードシップ理論が当てはまりやすい。
1.スチュワードシップ理論から見た取締役会のあり方
スチュワードシップ理論の前提に立てば、必ずしも独立社外取締役を大幅に増やすことは、企業にプラス効果をもたらさない。なぜなら独立社外取締役は外部の人間なので、会社をよくしようとする「責任感」が弱いからだ。
次にスタートアップ企業の社内メンバーは、自己利益以上のインセンティブで働いているため、上場大企業の社員と比較すると一体感・達成感・情熱・責任感などに満ちているはずだ。
そうであればむしろスタートアップ企業の取締役会には内部メンバーが多い方が、自己規律も働き、パフォーマンスがいいはずだ。
そして研究で「IPO後のスタートアップ企業では、社内から昇進した取締役の比率がある程度高い方がIPO後のパフォーマンスが高く、その最適な割合は50%-75%」という結果を得ている。
2.社会学ディシプリン理論から見た株主構成のあり方
株主構成のあり方にも新たな説明を与える。重要なのはやはり同族企業だろう。スチュワードシップ理論は、同族経営の強さを説明する理論である。
エージェンシー理論から見ても同族企業は悪い影響を及ぼすとは限らない。同族ではプリンシパルとエージェントが一体化しているので「目的の不一致」が解消されるし、「情報の非対称性」も解消するからだ。
スチュワードシップ理論も同様に同族経営の強さを証明する。そのメカニズムは、エージェンシー理論とは異なる。
人の責任感を前提とするスチュワードシップ理論では、同族はそもそも経営者が企業という”家族”に責任感を持つので、長期にその企業を成長・繁栄させることを目指すからという説明になる。
3.経営陣へのインセンティブ
経営者は「会社の長期成長に責任を持つ」と考える。
統計解析から「スタートアップ企業・同族企業のように役員がまだ創業者だと、その人は報酬をキャッシュでもらう割合を低め、非キャッシュの割合を高くする傾向がある。逆に、創業者でない役員はキャッシュで報酬をより多く受け取る傾向がある」との結果を得た。
つまり創業者・創業家からの経営陣は自社の長期成長への責任感が強いので、自身の報酬を会社の長期成長に委ねる報酬体系にする傾向があるのだ。そして逆に役員が創業者・創業家出身でない場合、企業の長期傾向に責任感を持てない。人の合理性が顕在化するので、役員はすぐに手に入るキャッシュを選びがちとなる。
自社が求めるガバナンスを考え抜け
企業ガバナンスを考えることは「人はそもそもどういう動機で仕事をするのか」の根源に立ち入る必要性を知らしめる。
厄介なのは「自己利益追求の合理性」と「責任感」とが常に入り混じることだ。経営者・ビジネスパーソンは、最適なガバナンスを目指さなければならない。
特に日本はガバナンスにおいて欧米と比べて3周遅れくらいの状態にあるので、「自社に求められるガバナンスは何か」を経営陣が十分に考え抜いていないことになる。
皆さんの企業にあるべきガバナンスを考え抜くために、経営理論を思考の軸としていただきたい。