世界標準の経営理論(著:入山 章栄 早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)の理解を深めるために、内容のまとめをアウトプットしていきます。

今日はソーシャルキャピタル理論についてまとめます。
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目次
ソーシャルキャピタルとは
ソーシャルキャピタル=人と人とが繋がって、関係性を構築することで得られる便益全て。人類が持つ「第三の資本」
複数の個人・集団の間に存在する「善意」である。その源泉は、プレーヤー関係の構造や内容にある。ソーシャルキャピタルはプレーヤー間の情報伝播、感染・影響、団結力などに影響をもたらす。
2002年「アカデミー・オブ・マネジメントレビュー」に掲載された論文の筆者意訳
ソーシャルキャピタルは2つに分けて理解
現代の経営学では、広義のソーシャルキャピタルを「ブリッジング(briding)」「ボンディング(bonding)」の2つに分けて理解することが主流となっている。
復習:ブリッジング型のソーシャルキャピタル
ブリッジング型ソーシャルキャピタルとは「弱いつながりの強さ(SWT)理論(前編、後編)」「ストラクチャル・ホール(SH)理論(前編,後編)」で説明できる便益全て
SWT理論は希薄なネットワークが「『知と知の新しい組み合わせ』を通じてイノベーションを起こしやすくする」と主張している。
一方、SH理論はネットワーク内のプレーヤー周辺の構造に着目した。プレーヤーA・B間の隙間にいるCには情報が集まりやすく、Cはその流れをコントロールして他者よりも優位に立てる。
これをブローカレッジと呼ぶ。
いずれにせよSWT理論とSH理論が提示する「便益」とは、「つながっていないプレーヤーの間を、第3のプレーヤーが媒介する」ことで生まれる。
そしてこれがブリッジング型のソーシャルキャピタルである。
新しい視点:ボンディング型のソーシャルキャピタル
ボンディング型ソーシャルキャピタルを生み出すネットワーク構造は、ブリッジング型と真逆
ボンディング型の便益は閉じたネットワークの強いつながりから生まれやすい。この閉じたネットワークを「dense network(高密度なネットワーク)」と呼ぶ。
ブリッジング型のSWT、SH理論の視点では、この高密度なネットワークは参加者に何の便益ももたらさない。しかし高密度の閉じたネットワークだからこそ得られる効能もある。
そしてそれがボンディング型ソーシャルキャピタルなのである。
このメカニズムを説明するのが「信頼」「ノーム」「相互監視と制裁」の3点だ。
- 信頼(Trust)
dense networkでは互いのプレーヤーが信頼関係を醸成しやすい。
ここで言う信頼とは「『相手が自分の期待を裏切るような行動は取らない』と互いに確信している暗黙の期待のこと」だ。
- ノーム(norm:暗黙の行動規範)
ノームはボンディング型ソーシャルキャピタルの根幹を成す。
ノームとは「我々はこのように振る舞うべき」という規範が、ネットワーク上の人々の間で暗黙に共有されることである。高密度で閉じたネットワークであればあるほど、次の2点の理由からノームは形成されやすい。
- 密な関係では互いのプレーヤーに利害関係が生まれるので、その調整のために行動規範が必要になる。
- 高密度で閉じたネットワークは「強いつながり」が形成されやすいので、「ノームを皆遵守するだろう」という信頼が形成されやすい
ここで重要なのはノームはあくまでも暗黙の規範ということだ。
「信頼」「ノーム」が形成されることで、人々は通常の市場メカニズムだけでは得られないような情報、知、モノ、カネなどを互いに提供・取引し合えるようになる。
- 相互監視(mutual monitoring)と制裁(sanction)
ボンディング型ソーシャルキャピタルが成立するには「公共財(public good)」の側面があることも理解しなければならない。
公共財とは「参加者の誰もがその便益を享受できるもの」のことだが、一方で「その形成・維持コストを誰が負担するか」という問題が常につきまとう。
公園のコストは役所が負担してくれるかもしれないが、例えば発展途上国の小さな村にある井戸は、村人全員で維持する協力が必要かもしれない
ソーシャルキャピタルも上述の例と同様なので、それは人が繋がることで存在するのだから、維持コストはつながっている全員で負担すべきという事になる。
従ってコストを負担しなかったり、蓄積された情報・知見・コンテンツを悪用・転用・独占する「フリーライダー(ただ乗り)問題」が発生することもある。
フリーライダー問題が横行すれば、ソーシャルキャピタルは維持されない。そのためボンディング型ソーシャルキャピタルが機能するためには「仮にノームを破る者がいたら、その者には十分な制裁を必ず加える」ことと、そのための相互監視が必須となる。
ボンディング型ソーシャルキャピタルの7つの例
ボンディング型ソーシャルキャピタルは至るところにあるが、その代表的な事例7つを紹介する
- ユダヤ商人の「ダイヤモンド取引」
ニューヨークのユダヤ人ダイヤモンド商人コミュニティ
ユダヤのダイヤモンド商人は取引時にダイヤの質を鑑定するため、取引相手からダイヤを一時的に預かる習慣がある。ダイヤを預ける側にとっては、見えないところでダイヤをすり替えられる可能性があるためリスクだ。
ただ、この商人コミュニティでそれが起こることはない。それは高密度なネットワークと相互監視の上での信頼関係が構築されているため、「決してすり替えられない」というノームが醸成されているからだ。
- ご近所付き合いや、地域コミュニティの「安心」
- イタリアン・マフィアの「団結」
- 専門家コミュニティの「集合知」
- 企業の従業員・マネジャーの「知識・情報の移転」
ボンディング型ソーシャルキャピタルは企業の競争力の源泉と主張されている。
企業は重要顧客情報、ベストプラクティス、コンプライアンスに関わる情報を企業内部で共有する必要がある。しかし一般に大企業の従業員は自分の知見・経験を提供したがらない。
何故なら自身の知見・経験が出世のライバルである同僚に無償で使われれば、自分にマイナスかもしれないからだ。
この問題の解消のためにノームの醸成に力を入れている企業のひとつがファーウェイだ。
ファーウェイでは「シェア」という企業内ノームの形成に多大な労力を割いている。現在170カ国に進出し、現地企業と様々な協業関係を築いており、そこで得た知見を従業員それぞれが、本社に持ち帰ってきている。
イノベーションの源泉は「知と知の組み合わせ」なので、同社はシェアした人を評価する制度・仕組み・工夫や研修などを導入している。
- ソーシャルファイナンスの「出資と返済」
- 江戸時代の株仲間制度
ボンディング型の効能は、ブリッジング型とは全く異なる。
自身が得るべき最適なソーシャルキャピタルのバランスを探ることが、競争力に直結するのだ。
デジタル時代こそ、健全なソーシャルキャピタル運営が課題となる
ボンディング型ソーシャルキャピタルのメリットの1つは「知見や考えをシェアし、集合知が高まること」にあるが、それはデジタルでも同様である。
デジタルのメリットはつながりが圧倒的に速いことであり、リアルなつながりよりもはるかに低い密度で開かれたネットワーク構造になっている。
ここにデジタル時代のコミュニティサービスの矛盾と課題が存在する。
デジタルネットワーク上ではフリーライダー問題が至るところで続発し、ノームが形成されにくい。
従ってデジタル上ではブリッジング型ソーシャルキャピタルの便益の方が圧倒的に得やすく、ボンディング型はデジタル上だと本質的に機能しにくい。
ただ、今デジタルネットワークで成功している企業は、このデジタル上のフリーライダー問題を巧みに解消している。
- SNS
SNSは主にブリッジング型の便益を提供する。しかし仮にSNS内で密なコミュニティが生まれれば、ボンディング型の便益も提供される可能性がある。
例えばFacebookは実名制であるため相互監視の状態を作りやすく、「希薄なネットワーク」と「高密度なネットワーク」が混在し得る。
逆にtwitterは実名登録が義務ではないこともあり、ボンディング型の効果は発揮されにくい。
- C2Cマーケットプレイス、シェアリングエコノミー
Uber,Airbnbなどは大量の人がつながり、その間で信頼・ノームを基礎にして取引が行われている。そしてユーザー間の評価の仕組みが相互監視機能に寄与している。
- ブロックチェーン
ブロックチェーン技術を使ったサービスはボンディング型ソーシャルキャピタルそのものである。
ブロックチェーン上では、そのサービスを使う全ての人がP2P(ピア・ツー・ピア)でネットワーク状につながり、互いに誰がどのような行動をしているかを世界中で全員が監視できる。
リアルとデジタルのネットワークで働く、真逆の力
これからのネットワーク時代を読み解くカギは「ボンディング型とブリッジング型のバランス関係」にある。
日本企業はこれまでボンディング型ソーシャルキャピタルに強く、1960-80年代の日本企業の競争力の源泉の1つだった。
しかしボンディング型が行き過ぎた結果、組織・チームの同質化が進みイノベーションが起きない状態に陥ったのである。
そして今日本に求められているのはイノベーションであり、イノベーションは知と知の新しい組み合わせで生まれる。従って求められているのは「弱いつながり」であり、人と人をつなぐ「ブリッジング」だ。
ブリッジングとボンディングの、相反する流れの最適なバランスを見抜くことがネットワーク時代を勝ち抜くカギだと言えるかもしれない。