世界標準の経営理論(著:入山 章栄 早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)の理解を深めるために、内容のまとめをアウトプットしていきます。

今日は「弱いつながりの強さ」理論についてまとめます。
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目次
ソーシャルネットワークの役割は、伝播・感染
ソーシャルネットワーク研究の核心を成す2大理論は「弱いつながりの強さ(strength of weak ties:以下SWT)」「ストラクチャー・ホール」である。
まずSWT理論の前提となるつながりの強弱の定義だが、学術的な基準があるわけではない。
以下の様なつながりを強い、逆が弱いつながりと考えてもられば良い。
「接触回数が多い」
「一緒にいる時間が長い」
「情報交換の頻度が多い」
「心理的に近い」
「血縁関係にある」
強いつながりの効能は直感的にわかりやすく、「信頼関係が築ける」「深い意見交換ができる」「いざとなったら助けてくれる」などがそれにあたる。
逆に弱いつながりの効能は具体的に思い浮かばない人が多いだろう。それを説明するのがSWT理論である。
弱いつながりは変化やイノベーションを促進する上で、決定的に重要となる。
ブリッジ(Bridge)について
SWT理論を理解する上で欠かせない概念が「ブリッジ(Bridge)」である。
ブリッジとは「2つの点をつなぐ唯一のルート」であり、ソーシャルネットワーク上で「あるつながりがブリッジとなりうる条件」が「つながりが弱いとき」なのだ。

なぜブリッジは「つながりが弱いとき」にしか発生しないの。それは3点理由がある。
- 理由1:交流の頻度
人と人が強いつながりにあれば、両者が接触する頻度は多くなる。
上の図を用いて説明しよう。
ABCがaの関係でいるとき、そこにブリッジはある。
ただA-C間が強いつながりで一緒にいる時間が90%、B-C間のつながりも強く一緒にいる時間が80%あるとする。
そうするとA-BもCを介して時間を共にする可能性は90%×80%=72%にもなる。
結局A-Bもつながってしまうので三者はbの関係になり、ブリッジはなくなってしまう。
- 理由2:心理的効果
Cと親友関係にあるAは、同じくCと親友関係にあるBに対して親近感を持ちやすい。
結果、AとBが互いの存在を認識すれば、両者は親しみやすさを持ってつながる可能性が高い。
- 理由3:類似性
人は本質的に「自分と似た人とつながりやすい」傾向にある。
この3点の理由のどれが重要かは問題ではなく、このいずれかの理由が存在するとaの関係からbの関係になってしまう可能性が高いということだ。
そうするとブリッジが存在しなくなってしまう。弱いつながりであればこの状況は起こりにくい。
もちろん弱いつながりの中でもABCの三者が全てつながる可能性はあるが、強いつながり上にブリッジが存在することはありえない。
ブリッジは全て弱いつながりの上に存在する。
ブリッジの効能:広域なソーシャルネットワークへの拡張
ブリッジの効能は情報・知の拡散が圧倒的に短く、効率的な点にある。
そもそもソーシャルネットワークの役割は、情報・知を伝播することにある。
その点、以下の図表のaの様なソーシャルネットワークで全体の隅々まで情報を伝播させるには、αの様なブリッジを経由することが圧倒的に効率的だ。
ネットワークをさらに拡張させたbだとさらにわかりやすい。
βは厳密にはブリッジではないものの、他ルートと比べて圧倒的に情報の伝播がはやく、短く効率的である。
この様に実質上、ブリッジと同じ効果を発揮するつながりを「ローカル・ブリッジ(local bridge)」と呼ぶ。

ここまでのポイントは2点ある。
- ポイント1:(ローカル・)ブリッジのあるソーシャルネットワークの方が、ネットワーク全体に情報が効率的に行き渡りやすい。
- ポイント2:一つひとつのブリッジは、弱いつながりでしかありえない
この2点を足し合わせたのが以下の図である。
現実的にはつながりの中に、強いつながりと弱いつながりが混在する。しかし理解しやすい様に、ここでは分けて書いている。

aの関係性ではポイント2にある通り、ブリッジは存在しない。閉じた三角形が多くある状態で、ネットワーク全体が濃密となる。これを高密度なネットワーク(dense network)という。
次にbの関係性を一辺が欠けた三角形からなる希薄なネットワーク(sparse network)という。
繰り返し述べるがソーシャルネットワークの役割のひとつは、情報・アイディア・知をネットワーク全体に伝播させることにある。
これに向いているのは確実に弱いつながりからなる希薄なネットワークだ。理由は以下の2点である。
- 理由1:希薄なネットワークにはブリッジが多いから、情報を伝播させるのに効率的
ネットワーク上で同じ情報を流すのに複数のルートがあると効率が落ちる。
例えば上のつながりを配水管として考えてみる。
水を隅々まで行き渡らせるには、確実にbの弱いつながりの方が少ない量で済む。
- 理由2:ブリッジが多いネットワークはルートに無駄がないので、遠くに延びやすい
ブリッジは弱いつながりからなるので、強いつながりよりも簡単に作れる。
その結果、aのネットワークを広げるよりもはやく、簡単に、効率よく拡げられるのだ。
弱いつながりが縁故採用を復活させる
人は弱いつながりの人脈を豊かに持っていれば「遠くにある幅広い情報を、効率的に手に入れる」という面で有利になる。そのためビジネスの様々な局面で優位に立ちうる。
例えば就職活動において、強いつながりにいる人はネットワークの範囲が狭く、同じような企業・業界情報しか手に入れられない。
逆に弱いつながりを持てば、様々な業界・企業についての多様な就職情報が遠くから、速く、効率的に流れてくる。
事実、ロシアで就職活動について調査した結果、人は強いつながりよりも弱いつながりを通じて就職先を見つけている傾向を明らかにしている。
就職生だけではなく企業にも弱いつながりの効能を得られる方法はある。
リファラル(縁故)採用だ。
リファラル採用を徹底して成果をあげていることで知られるのがメルカリだ。
メルカリでは人事担当者が社員に友人や知り合いで同社に向いていそうな人、関心のありそうな人を紹介してもらう仕組みが定着している。
他にも同社は「メルカリに関心がありそうな有望人材を『ゆるやかにつなぐ』ための仕掛け」としてミートアップを定期的に開催している。
弱いつながりこそが、イノベーションを引き起こす
ビジネスおいて弱いつながりが重要な最大の理由はイノベーションへの起点になるからだ。
イノベーションの起点は新しい知を創造することであり、新しい知は既存の知と既存の知の新しい組み合わせで生まれる。
遠くの知を探しに行くのは労力が必要なので、人は目の前にある知を組み合わせがちになる。その結果、知の組み合わせが出尽くし、組織・人から新しい知が生まれなくなる。
従って新しい知を生み出したい企業が最初にすべきことは「自分の目の前ではなく、自分から離れた、遠くの知を幅広く探索し、それをいま自分が持つ知を新しく組み合わせる」ことになる。
これを知の探索という。(知の深化・知の探索についてはこちら)
この行動に向いているのは明らかに弱いつながりだ。
事実、研究の結果「弱い人脈を多く持つ研究員の方が、創造的な研究成果を出しやすい」ということが明らかになっており、
他にも「共同開発・技術ライセンスなど、両社のコミットメントが弱くて済むタイプのアライアンス(弱いつながり)を多く持つ企業ほど、事後的に利益率を高める」傾向も明らかになっている。
では、どのようにしたらイノベーションを引き起こす弱いつながりを多く持てるのだろうか。
それは異業種交流会などの様々な場に顔を出して名刺を配りまくって人脈を広げることだ。
つまり「チャラ男・チャラ娘」のようなフットワークの軽い人こそ、イノベーションを生み出すためには必要なのである。いつも同じ人とだけ交流しないことだけを注意して、フットワークを軽くして様々な場に顔を出してもらいたい。
イノベーションは、辺境からやってくる
諺のように「イノベーションは辺境からやってくる」と言われているが、実はこれはソーシャルネットワーク理論と整合的なのである。
辺境にいるプレイヤーの方が弱いつながりを持っているので、遠くから幅広い情報を引き寄せ、創造性が高まる。
1980年代に世界中でヒットしたウォークマンを開発したのは、当時の電気機器ビジネスでは辺境だった日本のソニーである。
当時同業界のコアであるアメリカにいたRCAは、ウォークマンを作れる技術力があったにもかかわらず開発できなかった。
この例からもわかるようにイノベーションに必要なのは技術力ではなくアイディアなのだ。アイディア がなければ革新は起こせない。
強いつながりがイノベーションを実践に落とし込む
今まで弱いつながりのプラス面だけを述べてきたが、強いつながりにもプラス面はある。
それは「両者の間に信頼関係が醸成されている」ということだ。両者は強い信頼がなければ得られない、様々なメリットを享受することができる。
例えば知の深化は強いつながりの方が促進される。
イノベーションを実現されるには、収益化のために深掘りされる必要がある。
研究の結果、技術進歩のスピードが比較的ゆるやかな1990年代の鉄鋼業界では、合弁事業などの強いつながりのアライアンスが豊かな企業の方が、事後的な業績が良い傾向が明らかになっている。
強いつながりが重要なのは「実行・実践」の局面である。「社内で生まれた創造的なアイディアが実行されるには、その人が社内で強い人脈を持っている必要がある」という研究結果が示されている。
なので大企業でイノベーションを起こすには、弱いつながりと強いつながりが必要となる。つまり「チャラ男・チャラ娘と根回しオヤジの組み合わせ」が革新の創造につながるのだ。
ずっと日本に足りていなかったのは圧倒的に弱いつながりのほうだが、SNS普及のおかげで急速に拡大しつつあり、そのスピードはさらに加速するだろう。
SNSの普及によって起きているのがスモールワールド現象の加速である。
スモールワールド現象
スモールワールド(small world)現象は、米国で行われたチェーンメールの実験だ。
最初研究者は米国国内で任意の2人組(両者は互いに面識がない)を選出し、一方に対してもう一方の相手に届くように手紙を送るよう依頼した。
研究参加者は自分の知る人脈のうちで「その相手に一番届きそうな人」に手紙を出すよう依頼し、
その手紙を受け取った人はまた同じように最終目的の人に「近そうな人」手紙を出すという実験だ。
この実験の結果、手紙を最初に出した人から最後の人に届くまで平均6人だったのである。つまり6人を経由すれば、当時人口2億人以上いる広大な米国でも他人同士が繋がれるとわかったのである。
この現象を6次の隔たり(six degrees of separation)と呼ぶ。
弱いつながりについて理解している人はこの現象にも納得できるのではないだろうか。
この実験では弱いつながりの相手に手紙を出しており、そこにはブリッジが存在している。
そしてSNSの存在が世界をさらに小さくしている。
いま以下の2つの事象がフェイスブック上で日々起きていることがわかっている。
- 事象1-人はフェイスブック上で頻繁に交流している「友だち」が発信した情報を、シェアしがちな傾向がある。
→これは強いつながりの効果であり、自分と近しい人が発信した情報は心理的に周囲にシェアしたくなる。
- 事象2-フェイスブック上の「友だち」が情報をシェアした場合、そのシェアされた情報をその「友だち」の友だちがさらに周囲にシェアする確率は、両者にほとんど交流のない場合の方が、はるかに高い
→研究者はこの事象こそSWT理論を体現すると主張している。
強いつながりの友達がシェアした情報は、自分ももう既に知っている可能性が高いので、そこからはシェアされにくい。
しかし弱いつながりの友だちがシェアする情報は目新しいことが多く、シェアしたくなる。
ある研究者がフェイスブック上でユーザーから全組み合わせのペアを作り、友だちと友だちがつながるまでの経由数を計算した結果、平均4.7人経由すればたどり着くこととわかった。
手紙時代は6次の隔たりだったのが、今では4.7次の隔たりに縮まったのである。世界は確実にスモールワールド化が加速しており、アラブの春はその典型例である。
この政変ではメディアよりもフェイスブックでの情報交換が機能したと言われている。
[…] 今日は「弱いつながりの強さ」理論の残りについてまとめます。ちなみに前編はこちら […]
[…] 最も基礎的なレベルが「関係性のネットワーク(relational network)」である。これは主に人と人の関係の「質」に焦点を当てる。代表は「弱いつながりの強さ」で紹介したものである。具体的には親友とただの知り合いがもたらす効果の違いなどについての研究となる。 […]