世界標準の経営理論(著:入山 章栄 早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)の理解を深めるために、内容のまとめをアウトプットしていきます。
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今日は意思決定の理論1の続きについてまとめます。
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直感の理論の基本:二重過程理論
二重過程理論(dual-processing theory):現在の行動意思決定論・行動経済学の基盤となっている
まず前提として人の脳内では2種類の意思決定の過程(システム)が同時に、異なるスピードで起きるメカニズムが発生している。
・システム1
いわゆるヒューリスティックや直感による意思決定のこと
早く・とっさに・自動的に・思考に負担をかけず・無意識に行われる意思決定
・システム2
reasoning(論理的思考・推論)と呼ばれる意思決定のこと
時間をかけて・段階的に・思考を巡らせながら・意識的に行われる意思決定
人は認知に限界があるため、日常全てのことをシステム2のプロセスを決定することはできない。
そのためシステム1の意思決定はシステム2と比較して多く行われ、「事後的に振り返れば、明らかに間違った判断」を犯してしまう。
システム1の意思決定を表す言葉が「直感(intuition)」「ヒューリスティック(heuristic)」である。
ヒューリスティック
周囲の情報を多く精査せず、数少ない情報の拠り所(cueと呼ぶ)に頼って即座に意思決定をすること
行動意思決定の研究者たちの大きな主張:人は直感・ヒューリスティックに頼りがちなので、意思決定バイアスがかかり、正確な意思決定が難しくなる
そのため従来の行動意思決定論の概ねのスタンスは「人はできるだけ直感による意思決定を避けるべき」というものであった。
その結果、本屋には「論理的思考」の自己啓発本が並び、世間一般でもシステム2のような冷静沈着な思考が求められていることが多い。
ただ時代の荒波を乗り越えてきた経営者の多くが直感を大事にしていることも事実だ。
この関係性を経営学の研究者は研究し続け、最近になり「直感・ヒューリスティックは、むしろ時によっては意思決定にプラス」という研究成果が出てきている。
バイアスとヴァライアンスのジレンマ
直感研究のフロントランナーが2009年に「ヒューリスティック・直感は、意思決定のスピードを速めるだけでなく、状況によって論理的思考よりも正確な将来予測を可能にする」と明らかにした。
その条件の1つが「周囲の環境の不確実性が高い」ということだ。
周囲のビジネス環境が不確実になればなるほど、人は直感を使った方が将来の予測精度を上げて優れた意思決定ができる。
人が自身の意思決定の成果を「どのくらい見誤るか(予測のエラー度が高いか)」は、次の3つの要素で決まる。
予測エラー度 = (バイアス)^2 + (ヴァライアンス) + (ランダム・エラー)
バイアス:人の認知バイアスのこと
ヴァライアンス:「過去の経験や情報収集などにより得られた変数が将来の予測にはどれだけ使えないか」の程度のこと
ランダム・エラー:外部からの予想外の変化のこと
ここで注目すべきはバイアスとヴァライアンスのトレードオフ(ジレンマ)の関係にある。
バイアスを減らそうとすればヴァライアンスが増え、逆にバイアスの高さを許容すればヴァライアンスを減らすことができる。
例えば人が時間をかけて意思決定を下す時、頭の中で使われる「情報変数」は多くなる。
慎重に考えれば考えるほど「実は今回の意思決定では使い物にならない」変数も紛れ込むので、バイアスが減ったとしてもヴァライアンスが高まれば結果として全体の予測エラー度は増すのである。
つまり「どのような時に予測エラー度が高くなるか」というと環境の不確実性が高い時になる。
なぜなら過去の経験に従って慎重に時間をかけて考えても、実は使えない変数を引きずったまま脳内モデルで予測が行われるので、むしろ予測エラー度が高まるのである。
逆に思考モデルがヒューリスティック型でシンプルであれば、脳内で使われる情報変数が少なく、「実は使えない変数」が入り込む余地も少ない。
脳内モデルのヴァライアンスを大幅に下げられる事になる。結果として、全体では予測エラー度を下げ、優れた意思決定を行うことができるのである。
先のフロントランナーによると、特に重要な要件は「その直感・ヒューリスティックが、その人の様々な経験に裏打ちされたものでなくてはならない」というものだ。つまり玄人の感が望ましいということである。
不確実性の高い環境では直感的な意思決定の方が優れた意思決定をできる例
就職における採用担当者が意思決定を直感に頼った時の効果
誰が自社の仕事に適しているかは、採用してみなければわからない部分が多い。(情報の非対称性の最たる例)
研究者が「就職における採用担当者が意思決定を直感に頼った時の効果」の研究で3つの実証研究を行った結果、
「ヒューリスティックな意思決定の採用手法の方が採用パフォーマンスが高い」
という結果を得た。
他にもトルコの155企業の統計結果から、
「変化が激しい事業環境では、直感を重視する企業の方が製品開発の創造性が高まりやすい傾向」
も明らかになっている。
現代の経営学で直感が応用されている2つの分野
現代の経営学では「企業倫理の分野」「エンジェル投資」の2つで直感が応用されている。
企業倫理の分野
例えば緊急事態時の「倫理的なルールを破ってでも行動するか」「倫理基準を破ったものを制裁するか」などは、倫理的・客観的な思考だけでは説明がしづらい。
エンジェル投資
2015年、2017年に発表された論文で「優れたエンジェル投資家が、投資先選定のかなりの部分を直感に頼っている」事実を明らかにしている。
エンジェル投資の不確実性は極めて高いので、直感に頼った方が優れた成果を出せるということになる。
例えばソフトバンクの孫正義氏がアリババに投資した時、創業者のジャック・マーと会って事業計画書も見ずに5分で投資を決めたというのは有名な話だ。
「直感」研究の進展が、経営学の未来を切り開く
直感の研究は台頭しつつあるが、まだ「世界標準の経営理論」に昇華したとは言えない。
そこで筆者(入山 章栄氏)から発展の3つの展望が述べられている。
1.「どのような条件で直感が有効になるか」についてのさらなる探究
「不確実性が高い時には、玄人の直感が有効」とまでは言えそうだが、条件は他にもあるはず。
2.論理思考と直感の関係性
近年の神経科学では、「直感思考と論理思考は相反するものでなく、むしろ補完関係にある」と言われている。
parallel-competitive:直感思考と論理思考は同時に進み、結果として補完的な役割を互いに果たしているという主張
直感が論理思考を刺激し、その論理思考が直感を刺激し、またその直感が論理思考を刺激するといった流れである。
3.他の経営理論への応用
「直感の理論」がより体系化されることは、他の経営理論をさらに進化させる重要な契機になる。
SECIモデルは「アブダクション」「知的コンバット」など様々な局面で直感の重要性を謳っている。
他にもダイナミック・ケイパビリティ(1,2)においても研究者は、直感とダイナミック・ケイパビリティの親和性を強調している。中でも「シンプル・ルール」の親和性が高い。
直感の理論の精緻化は、それを起点として今後の経営理論の大きな進歩をもたらす可能性がある。