世界標準の経営理論(著:入山 章栄 早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)の理解を深めるために、内容のまとめをアウトプットしていきます。
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今日はリアル・オプション理論についてまとめます。
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事業評価法・計画法としてのリアル・オプション
事業評価の定番DCF(discounted cash flow)法:将来その事業が生み出すであろうキャッシュフローを現在価値に割引いて事業価値を評価
DCF法のポイント:事業計画時点で将来の事業化環境を予測して事業計画を立て、その予測を前提に将来キャッシュフローを計算すること
リアル・オプション法:DCFでは取り込めなかった事業環境の不確実性(uncertainty)を事業評価に活かす術を提示
DCFの場合
最初に成長率の予測値を設定する。平均成長率予測が大幅にぶれる不確実性の高い市場の場合、DCFではリスクが高い。
仮に成長率予測が2%-15%までぶれる市場で計画上の成長率を高めに設定すると赤字になる可能性があり、
逆に計画上の成長率を低めに設定すると採算が取れないので投資判断がされないことになる。
リアル・オプション理論の場合
リアル・オプションの神髄:不確実性の高い状況で将来オプションを意図的に作り出し、逆に不確実性を活かすこと
リーン・スタートアップと同じで「当初計画よりも小さい初期費用で工場を作って、とりあえず事業を始める」ことを考える
リアル・オプションのアプローチのメリットは大きく4つある
- ダウンサイドの幅を抑える
市場下振れの際の大幅損失を抑えることができる。他の事業計画法で投資判断をすると、いきなり大規模な予算を工場建設などの設備に投資する。
しかし市場成長率10%と見込んで投資したのに実際は2%しかなかった場合、大赤字となってしまう。
ただ当初計画値40%などの投資で事業を開始すれば、数年後に実際の市場成長率が低かったと判明してもその時に撤退or継続を選ぶことができる。仮に撤退しても赤字は40%だけで済む
- アップサイドのチャンスを逃さない
ダウンサイドよりも重要なことがアップサイドチャンスを逃さないことだ。
ダウンサイドの例で投資をして市場成長率を計画値を上回った時は、もちろん継続して利益を得ることができる。
さらにDCF法ではそもそも事業投資決定の判断をされずにチャンスを逃してしまっていた不確実性の高い市場も捉えることができる。
なぜならとりあえず最初に小規模の投資をして判断をするので、撤退or継続の判断は数年後にすれば良いからだ。
意図的に段階的な投資を組むと数年後に「現状維持」「撤退」「追加の規模拡大」を選べる状況を作り出せる。
上述3つのオプションのうち追加の規模拡大の選択肢をコール・オプション(call option)と呼ぶ。ポイントは企業にとって「権利はあるが、義務はない」ことだ。
さらにこの柔軟性の価値の総称をオプション価値(option value)と呼ぶ。
- 不確実性が高いほど、オプション価値は増大する
リアル・オプションの含意で最も重要なのはこの3点目
段階投資によって下振れの損失を一定に抑えてまずは投資すると、逆に不確実性が高いほど上振れのチャンスが大きくなる
- 学習効果
とにかく小規模でも投資を行って市場の潜在性や顧客の嗜好を学ぶことができる学習効果も重要だ
この学習効果によって市場の不確実性を押し下げることもできる
経営理論としてのリアル・オプション
代表的な3つのオプション
- コール・オプション(call option)
経営学では特にM&A,合弁への応用が進んでいる。
不確実性が高い時にいきなり相手の株式を全て買収するのではなく、まずは部分出資・合弁組成したりして、事後的に不確実性が下がってから残りの株を買う「コール・オプション」型の戦略をとった方が良い。
ウォルマートはこの戦略を実践している。
91年に初めての海外事業としてメキシコに進出した際に、まずは現地小売最大手シフラと合弁企業を設立した。
その後、メキシコの市場が明るいとわかった97年にシフラに合弁企業を吸収させた上で、シフラ本体の株を33.5%買収し、その後過半数まで買い増しをした。
同社は現在メキシコ小売の最大手となっている
- スイッチング・オプション(switching option)
複数の不確実性の高い市場に拠点を持つことで、投資ポートフォリオ全体のリスク・ヘッジをしながらアップ・サイドをとる戦略
企業では特に多国籍企業の投資戦略への応用が進んでいる
数多くの実証研究の結果、企業の多国籍化が進むほど企業利益のダウンサイド・リスクが低下する傾向を明らかにしている
- 撤退オプション(exit option)
不確実性が高い時に撤退をしやすくしておくオプションのこと
撤退をしやすいデザインを事前に組めれば、下振れリスクを抑えながら上振れのチャンスを取れるので不確実性が高い事業にも投資しやすくなる。
リアル・オプションは今後日本でさらに重要になる
理由は2点
- 日本の事業環境の不確実性が、さらに高まる可能性が高い
グローバル化・規制緩和・技術革新のスピード化の背景を受けてビジネスパーソンの間で既に「リアル・オプション的なビジネス思考」への重要性は高まっている。
事実シリコンバレーの著名起業家の主張したリーン・スタートアップが過去に日本でも話題となった。
リアル・オプション理論はフレームワーク化も進みつつある。
ディスカバリー・ドリブン・プランニング(discovery driven planning:DDP)という事業計画法が有名だ。
これは「前提はあくまでも前提にすぎない」という事業計画法である。
高い不確実性下での事業計画では、「将来の市場規模」「市場価格」「顧客の嗜好」などの計画の前提を先に全て洗い出し、事業が始まって不確実性が下がったら、その度に前提を見直して計画を練り直すというアプローチ
- 起業の活性化がさらに求められる
起業は不確実性が高いので、リアル・オプションとの相性が良い
起業は不確実性が高いから、人々が下振れリスク(失敗時の金銭的リスク・倒産手続の煩雑さなど)を恐れる限り、その国の起業は活性化しない。
逆に事業が失敗しても起業家が多大な負債を負わないで済んだり、倒産手続きが簡素に済んだりすれば、撤退による金銭的・時間的・精神的なコストが小さくて済む
その国の倒産法が失敗事業をたたみやすいようになっているほど、撤退オプションの価値が高まり、逆に人々に起業を促すことになる。
リアル・オプションは万能ではない
リアル・オプションは万能ではなく、応用範囲は3つの条件を満たした時に限る
- 投資の不可逆性が高い
投資の不可逆性(irreversibility):一旦投資すると撤回できない性質の投資
投資の不可逆性が低ければ、結果はどうあれ投資した分を事後的に取り戻せるのだから、リアル・オプションの有用性は低い
- オプション行使のコストが低い
オプション行使のコストを下げるスキームが重要
先のウォルマートの例では、実はこれに失敗している。
シフラは上場企業だったため、97年に買収する際多額のプレミアを支払っている。その後の成長で取り戻してはいるが、オプション行使のコストは非常に高くついていた。
その点2002年に日本の西友をウォルマートが買収した際は、初期の出資時に新株予約権方式で事後的に西友株を追加買収できる権利を得て、買収金額も事前に設定している。
- 事業環境の不確実性が高い
何度も繰り返している通り、事業の不確実性が高い時にのみ、オプション価値は上昇する。
事業の不確実性とは何か
経済学では不確実性を「市場成長率などある一定の指標が実現しうる、釣鐘型の確率分布」として認識されているが、実際のビジネスで我々が直面する不確実性が経済学が仮定するほどシンプルではない。
リアル・オプションを理解する上で有用な不確実に関する2つの種類分けがある。
よって、我々に求められるのは事業の不確実性をよく見抜き、以下の不確実性のどのタイプなのか絞り込む力なのである。
- 内生的か外生的か
外生的な不確実性(exogenous uncertainty):企業が自らの努力では低下させることのできないタイプの不確実性
例)MAターゲット相手の市場成長性・市場価格の将来動向、新興市場投資における現地の政情不安など
この不確実性の時はリアル・オプション的な戦略・投資は有効
内生的な不確実性(endogenous uncertainty):自らの努力で低下させることのできる不確実性
例)MAターゲット企業の技術レベル
この不確実性の時はリアル・オプション的な戦略・投資は有効ではない。不確実性が下がるのを待つよりも、ターゲット企業に人を積極的に送り込んでデューデリジェンスをするなどして不確実性を下げた方が良い。
- 不確実性の4つのレベル
不確実性には4つのレベルがあり、リアル・オプションが有効なのはレベル2の時のみ。
- レベル1:確実に見通せる未来
戦略の決定上、十分な確度の予測はできる。有効な分析ツールはオーソドックスな戦略ツール
- レベル2:他の可能性もある未来
将来を明らかにする離散データはわかる。有効な分析ツールは意思決定分析、オプション評価モデル、ゲーム理論
- レベル3:可能性の範囲が見えている
起こりうる結果の範囲はわかるが、最も可能性の高いシナリオは描けない。有効な分析ツールは製剤需要の評価、技術予測、シナリオ・プランニング
- レベル4:全く読めない未来
未来を予測するための拠り所がない状況。有効な分析ツールはアナロジーとパターン認識、非線形ダイナミック・モデル