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【経営理論】情報の経済学-エージェンシー理論【理解と実践】

世界標準の経営理論(著:入山 章栄 早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)の理解を深めるために、内容のまとめをアウトプットしていきます。

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今日はエージェンシー理論についてまとめます。

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エージェンシー理論とは

エージェンシー理論とは「取引が成立した後に組織で生じる問題を説明する」理論のこと

例えば前回の記事でもあげた保険会社の場合、2つの保険タイプを用意すれば注意深い人と注意深くない人のアドバース・セレクションを乗り越えることができた。

しかし保険加入後は、元来注意深かった人も注意深くなくなるのが合理的だ。なぜなら保険に加入したので事故を起こしてもそれが補填されるから。
元々注意深くなかった人が更に注意深くなくなるのは言うまでもない。

これが保険ビジネスのもう一つの問題であり、モラルハザード問題(もしくはエージェンシー問題)という。

このモラルハザードのメカニズムとその対処法を考えるのがエージェンシー理論の主目的だ。

モラルハザードが高まる2条件

①目的の不一致

経済主体(プリンシパル)と代理人(エージェント)の利害関係の乖離を指す。

保険の例でいうと経済主体とは保険会社であり、代理人は保険加入者だ。
保険会社は加入者に「注意深く運転してほしい」のに、加入者は保険に入ったがゆえに「注意深くなくなる」のがそれに当たる。

②情報の非対称性

これは前回の記事と同様だ。上の例だと保険会社は逐一加入者の行動を把握できない。

この2条件が揃うとエージェントがプリンシパルにとって不利益な行動を取りがちになる。
但しこれは人間の合理的な判断の帰結として捉えられる。

企業組織は全てモラルハザード問題を持つ

企業組織は様々な立場の人が取り巻いているため、全ての人が時にプリンシパルとなり、時にエージェントとなる。

特に企業組織におけるモラルハザード問題の重要な柱となっているのが以下の2点である。

①部下(従業員)の管理・監督問題
②コーポレートガバナンス(企業統治)

例を挙げて順を追って説明する

①部下(従業員)の管理・監督問題

例1:管理職と部下

プリンシパル:管理職
エージェント:部下

管理職は部署の目標を達成するために、部下へ「一生懸命働く」という行為を依頼していると解釈できる。

しかしほとんどの企業で部下が”常に”一生懸命働いているとは限らないだろう。「外出先から直帰する」と言ってサボっている部下も多いはずだ。

この際、管理職は部下の行動を逐一把握できないので、情報の非対称性が生じている。

例2:経営者と管理職

プリンシパル:経営者
エージェント:管理職

視点を変えれば管理職がエージェントとなる。

経営者は自社の業績を上げるために、可能な限り各部署に高い成績を残してほしいはずだ。
この場合、経営者が管理職に「可能な限り高い成績を上げる」という行為を依頼していることになる。

ただ、多くの部署ではノルマを達成したら残りの契約はなるべく来期分に回そうとするはずだ。

もちろん経営者が全ての部署の全案件を把握することは不可能なので、ここでも情報の非対称性が生じている。

②コーポレートガバナンス(企業統治)

プリンシパル=エージェント問題は株式会社の本質である。

株式会社制度の「所有と経営の分離」によって、プリンシパル=エージェント問題は本質として内在する。

「所有と経営の分離」に従って会社の所有者である株主は経営に携わらない。実際に経営するのは経営者となる。

この場合のプリンシプル・エージェントは次の通りになる。

プリンシパル:株主
エージェント:経営者

この時もモラルハザード問題が生じて、必ずしも経営者が株主の期待通りに企業運営するとは限らない。

この問題を解消するために生まれたのがコーポレートガバナンスである。
ここからはコーポレートガバナンス分野で議論されている4つのモラルハザード問題を紹介する。

①大胆な戦略が取れない経営者

問題:経営者が過度にリスクを恐れる
理由:株主は複数企業の株を所有してリスクヘッジしているのに対し、企業経営者はリスクを犯した挑戦が失敗すると失職につながるから

例:日本企業経営者
日本企業の多くは内部昇進の延長で務める。従って無難に自分の任期を終えるためにリスク回避のインセンティブが発生し、リスクを取った成長戦略を描けなかった

②利益より企業規模を重視する経営陣

問題:利益か成長か
理由:株主は株価の最大化を求めるが、経営者は企業の成長を優先する。利益を成長する場合は人員削減・自身の給与カットなどを検討しなければならないが、成長を目指す限りはそれらをする必要がない。
従って株主が望まない拡大投資・M&Aに走りがちとなる。

例:1980年代のGM,IBM,イーストマン・コダック、バブルの日本
この傾向は企業にキャッシュが潤沢にあるほど生じやすい。
キャッシュフローを不必要な投資(ゴルフ場やリゾート施設など)に回してその後の経営不振に陥る。

③経営者の報酬

問題:経営者は自身の報酬を業績以上に高額に設定する可能性
理由:過度に高額な報酬は企業価値を毀損するので株主にとっては望ましくない。しかしその状況を制御できないので、経営者の報酬は増加傾向にある。

④企業スキャンダル

問題:自身の評判や地位を守りたい経営者の自我
理由:経営者自身の評判や地位を守りたいために、企業業績を粉飾するインセンティブが生じる。株主は正確な業績を知りたいが、公表された業績が本当かどうか判断することは難しい。

モラルハザード問題の解消方法

エージェンシー理論は実際に多くの企業で起こる問題を説明可能だ。

モラルハザード問題は精神論的な解決法が叫ばれがちだが、エージェンシー理論の視点からは異なっている。
なぜならエージェントがモラルハザード問題を起こすのは「目的の不一致」「情報の非対称性」から生じる合理的な行動の帰結であるから、精神論で解決できないとわかっているからだ。

問題解決のためにはその根源である「目的の不一致」「情報の非対称性」を解消する組織デザインとルール作りが重要である。

そのために重要視されているのが以下の2つである。

①モニタリング
②インセンティブ

モニタリングによる解消法

モニタリング:プリンシパルはエージェントを監視する仕組みを組織に取り入れて情報の非対称性の解消を目指すもの

モニタリング手段の例

「物言う株主」のモニタリング

大株主など発言権のあるプリンシパルを取締役に送り込むこと

例:スタートアップの取締役にベンチャーキャピタルの投資家を送り込むこと、上場企業に対する物言う株主

社外取締役・監査役の導入

企業が外部からの取締役・監査役を受け入れること。社外取締役は株主ではないが、外部の目が入ることで企業の透明性が高まり、株主に対する情報の非対称性解消を期待できる。

例:日本政府の企業ガバナンス透明化重視
2015年に開始されたコーポレートガバナンスコードでは、社外取締役が一人もいない上場企業は、その理由を定時株主総会で説明しなければいけなくなった。

インセンティブによる解消法

インセンティブ:プリンシパル=エージェント間で目的の不一致解消を目指す

例:従業員・部下の管理への「業績連動型の報酬」、経営者への業績連動型報酬・ストックオプション

モラルハザード問題解消法は万能ではない

上述の例は万能とは限らない。近年の研究では副作用をもたらしかねないという主張も提示されている。

従業員のモニタリング・コスト

従業員・部下の行動を逐一チェックすることはコスト・時間がかかるので非現実的だ。

企業では抜き打ち検査が行われるが、なぜ抜き打ちなのかというと毎回やるとコストがかかるからだ。

従って限定された回数による不完全なモニタリングしかできない。

大株主モニタリングの限界

小規模株主のフリーライダー問題

大株主はコストをかけて経営者の行動を監視する一方、小規模株主はそれができない。そして実質、小規模株主はコストをかけず大株主のモニタリング結果の利益を得ていることになる。

もし大株主がこの問題を重視すれば、コストをかけてモニタリングするインセンティブが弱まる。
一方、この立場を利用して大株主が小規模株主の利益を損なうような行動を取る可能性もある。

機能しない社外取締役モニタリング

社外取締役が経営者の知り合い・身内から選出された場合、機能しない。

例えば2012年のオリンパス粉飾決算問題では、同社に3名の社外取締役がいたにも関わらず、全く機能していなかった。

業績連動型のインセンティブの難しさ①

営業などの数値化しやすい業種は良いが、バックオフィス部門には適用しにくい。

さらに営業社員も営業だけで企業に貢献しているわけではなく、顧客との対話を通したマーケティングやクレーム処理機能も持っている。

業績連動型が数字に表れない成果を取り込めないなら、その仕組みは機能しにくい。

業績連動型のインセンティブの難しさ②

営業成績が外部要因によって左右されるなど、自身の責任ではない理由で営業成績が不安定化する場合は、リスクを避けたがる従業員への業績連動型報酬は機能しにくい。

ストックオプションによるインセンティブの副作用

経営者へのストックオプション付与には、「経営者が粉飾決算するインセンティブが高まる」副作用がある。

モラルハザード問題①②を解消するための施策が、逆に問題④を誘発するのだ。

企業組織の抱える問題は複雑で、モラルハザード問題解消の施策を検討する際には、その難しさや副作用も慎重に考慮する必要がある。

重要なことはエージェンシー理論を「思考の軸」として理解することだ。

ビジネスパーソンが組織の問題に直面したら、
「誰がこの問題のプリンシパル、エージェントなのか」
「何が目的の不一致になっているのか」
「情報の非対称性の原因は何か」
「目的の不一致を解消するインセンティブの仕組みはないか」
などを考えることが有効な思考の出発的となる。

日本で最も業績が良い企業統治のパターン

婿養子を迎えた同族企業のパターンが最も業績が良くなる。
これはエージェンシー理論で説明可能だ。

同族企業は経営者が大株主なので、「所有と経営の一致」を意味する。そのためプリンシパルとエージェントが一枚岩で目的の不一致が発生しない。

日本企業の問題点であった「リスク回避的で大胆な戦略を打てない」ことも、同族企業であれば解消される。

唯一の同族企業のネガティブ要素は、必ずしも後継者が優秀とは限らないことだ。
しかしこの点も婿養子であれば解消される。

通常婿養子は時間をかけて企業の内部・外部から選出された人なので、脂質の劣る人が経営陣に登用されるリスクは少ない。

従って優秀な婿養子が創業家に入ると企業の業績は伸びやすいのだ。

組織メカニズムの理解に、エージェンシー理論は欠かせない

婿養子の例のように、エージェンシー理論を思考の軸とすれば、企業組織のメカニズを説明可能だ。

それはエージェンシー理論が人の合理性を前提にした組織メカニズムの考察をさせてくれるからであって、組織の問題を理解する上でこの理論を欠かすことはできない。

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